【東南アジアトレンド 6/23】バンコク大規模都市開発と鉄道延伸計画の最前線

東南アジアの都市開発は、2026年に入ってから加速度的に動いている。今回はタイ・バンコクを中心に、東南アジア各都市のインフラ整備の最前線を追う。

バンコク首都圏、鉄道連動型メガ開発計画を承認

バンコク首都圏では、鉄道網に連動した大型開発プロジェクトを推進するための新都市計画が承認され、郊外エリアの再開発が加速する見通しだ。MRT(地下鉄)やBTS(スカイトレイン)の延伸エリアを中心に、商業施設・住宅・オフィスが一体型で整備される計画が複数動いている。

バンコクの鉄道網は近年急速に拡充されており、2025年時点で営業路線の総延長は200km超に達している。延伸計画が完成する2030年代には、300km以上の路線網が整う見込みで、これは東京メトロ・都営地下鉄の合計に匹敵する規模だ。

今回承認された都市計画のポイントは「TOD(Transit Oriented Development)」、つまり公共交通を軸にした都市設計の徹底だ。駅周辺の容積率を引き上げ、高密度な複合開発を認めることで、クルマ中心の郊外開発から脱却しようという狙いがある。

【筆者所感】バンコクに初めて行ったのは10年以上前だが、当時と比べると街の様相が別物になっている。BTSのスクンビット線が延伸されるたびに沿線のカフェ・レストランが増え、若者が集まる街が生まれていく。個人的に興味深いのは、鉄道整備が「女性一人でも出歩きやすい街」を作っている点だ。深夜でも明るく人通りのある駅周辺は、東南アジアのイメージを大きく変えている。

ハノイ、2028年から市内への低品質バイク乗り入れを禁止へ

ベトナムの首都ハノイは、2028年からナショナルスタンダードを満たさないガソリン駆動のバイク・オートバイを市内中心部への乗り入れ禁止にする計画を発表した。ハノイの交通渋滞と大気汚染の主因となっているオートバイを段階的に排除し、電動バイクや公共交通への転換を促す狙いだ。

ハノイのオートバイ登録台数は700万台を超えており、人口1人当たりのオートバイ保有率はアジアでも有数の高さだ。この政策が実現すれば、街の景色と交通事情が根本的に変わることになる。

【筆者所感】ハノイの旧市街をオートバイの波をかき分けて歩いた経験のある人なら、この政策の意義がわかるはずだ。道路を埋め尽くすバイクの群れは、ある意味でベトナムらしい風景でもあるが、排気ガスと騒音は確かに深刻だ。電動バイクへの移行は環境面でプラスだが、庶民の移動手段や生計(バイクタクシー運転手など)への影響も大きい。単純に「いいニュース」とは言えない複雑さがある。

マレーシア空港、5年間で110億リンギットを投資

マレーシアの空港運営会社MAHBが、クアラルンプール国際空港(KLIA)を中心に今後5年間で110億リンギット(約3,800億円)を投資すると発表した。ターミナルの拡張、滑走路の増設、スマートチェックインシステムの導入などが含まれる大型投資計画だ。

コロナ後の航空需要回復に加え、東南アジア域内の航空需要が急増していることが背景にある。KLIAは東南アジアのハブ空港としての地位をシンガポールのチャンギ空港と争っており、今回の投資はその競争力強化を狙ったものだ。

【筆者所感】KLIAは個人的に使い勝手のいい空港だと思っていて、東南アジア各国を飛び回るときの経由地としてよく利用する。チャンギ空港ほどの豪華さはないが、清潔で移動しやすく、LCC専用ターミナルのklia2もコスパがいい。110億リンギットの投資で何がどう変わるのか、次回訪問時に確かめてみたい。

まとめ

東南アジアの都市インフラは、確実に「次のステージ」に移行しつつある。バンコクの鉄道連動型開発、ハノイのオートバイ規制、マレーシアの空港拡張——それぞれ規模も文脈も異なるが、共通しているのは「経済成長に都市設計が追いつこうとしている」という方向性だ。旅行者として東南アジアを訪れる人にとっても、5年後・10年後の都市の姿は今と大きく異なるはずだ。変化の過渡期を体感できる今は、ある意味で最も面白い時期かもしれない。

ホーチミン市、地下鉄を2030年までに10倍に拡張へ

ベトナム政府はホーチミン市の地下鉄ネットワークを、現在の1号線(全長19.7km)から2030年までに大幅拡張する計画を正式に命じた。現在建設中の路線を含めると、2030年代初頭には複数の路線が開業し、延長200km超のネットワーク形成を目指している。

ホーチミン市は現在も深刻な交通渋滞に悩んでおり、地下鉄の整備は長年の課題だった。1号線はコロナ禍などで大幅に遅延したが、ようやく開業し市民から好評を得ている。追加路線の整備には日本のODA(政府開発援助)や国際機関からの融資も活用される見込みだ。

【筆者所感】ホーチミンの1号線に乗ったとき、驚くほど混雑していた。「やっと動いた」という市民の歓迎ムードが伝わってきて印象的だった。ただ、路線が1本では街全体の交通課題は到底解決できない。2030年に向けた拡張計画が本当に実現すれば、街の動き方が根本から変わる。旅行者としても、地下鉄で移動できる範囲が広がれば体験の質が上がる。

プノンペン、公共空間の深刻な不足問題が浮上

カンボジアの首都プノンペンが急速な都市化の弊害として、公園・広場などの公共空間の絶対的不足という問題に直面している。不動産開発が優先される中、緑地や市民が自由に集える場所が削られ続けており、都市計画の専門家からも懸念の声が上がっている。

プノンペンのGDP成長率はここ数年6〜7%を維持しており、高層ビルやコンドミニアムの建設ラッシュが続いている。しかし成長の速度に都市インフラの整備が追いついておらず、交通渋滞・洪水対策・緑地不足という「都市成長の痛み」が顕在化してきた。

【筆者所感】プノンペンは5〜6年前から劇的に変わった都市だ。以前はシェムリアップに次ぐ観光地という印象だったが、今はビジネス目的の訪問者も多い。街のあちこちに建設中のタワーが立ち、中国系資本の影響も大きい。公共空間の喪失は住みやすさに直結する問題で、経済成長一辺倒の都市開発には限界があることを示している。

まとめ

東南アジアの都市インフラは「成長の勢い」と「整備の遅れ」が同時に進行している。バンコクのTOD開発が理想的な方向を示す一方で、プノンペンのような公共空間喪失の問題が都市計画の難しさを示している。マレーシアの空港拡張やハノイのオートバイ規制など、各国が自国事情に合わせた解決策を模索しているのが現状だ。東南アジアの都市の将来像は、今まさに形成されつつある。