「アンコールワット」だけのイメージで語られがちなカンボジアだが、首都プノンペンは今、東南アジアの中でも最も急速に変化している都市の一つだ。GDP成長率6〜7%を維持しながら、高層ビルや新興住宅地が次々と建設される「開発ラッシュ」が続いている。今回はプノンペンの今と、旅行者には意外と知られていない変化を追ってみる。
止まらない開発ラッシュと不動産バブルの懸念
プノンペン市内では、数年前まで低層の建物が並んでいたエリアに、突如として30〜40階建てのコンドミニアムが建設されるケースが相次いでいる。外国資本(特に中国・韓国・日本からの投資)が不動産市場に流入し、価格を押し上げてきた。
コロナ禍で一時的に価格が下落したプノンペンの不動産市場は、2023年以降に再び回復基調に入っている。ただし、市場には需給ミスマッチの問題がある。富裕層・外国人向けの高額物件は供給過剰気味の一方、現地中間層が手の届く価格帯の住宅は不足しており、住宅市場の二極化が進んでいる。
また、先述の通り急速な開発による公共空間(公園・広場・緑地)の喪失も深刻な問題だ。都市計画の観点からは、民間開発と公共インフラのバランスをどう取るかが今後の課題になる。
【筆者所感】プノンペンを初めて訪れたのは10年以上前だが、当時は街全体がまだのんびりした雰囲気だった。今は中心部に行くと工事中のタワーが至るところに見え、街の「密度」が明らかに上がっている。開発の勢いは感じるが、どこか急ぎすぎている印象もある。「作った後に人が来なかった」という物件も少なくないと現地の知人は言う。
旅行者が知らないプノンペンの新顔エリア
観光客の多くはリバーサイドや旧市街(センターエリア)に集中するが、プノンペンには旅行者にはまだ知られていない注目エリアが存在する。
まず注目したいのが「BKK1(ボエン・ケン・コン1)」エリアだ。外国人在住者が多く、おしゃれなカフェ・レストラン・バーが集積する。地元の若者と外国人ビジネスパーソンが混在する独特の雰囲気は、バンコクのトンロー・エカマイや、ホーチミンの2区・3区に似た空気感がある。
次に「ダイヤモンドアイランド(コーピッチ)」。メコン川とトンレサップ川が合流する中州に開発された新興エリアで、高級コンドミニアムやモール、ウォーターフロントプロムナードが整備されている。まだ開発途上だが、数年後には大きく変わっている可能性があるエリアだ。
【筆者所感】BKK1エリアのカフェでコーヒーを飲みながら、現地に住む日本人や欧米人と話すのが好きだ。「なぜカンボジアに住んでいるか」という理由は人それぞれで、ビジネスチャンスを求めている人、生活コストの安さに惹かれた人、NGO活動をしている人など、バラエティが豊かで会話が面白い。プノンペンは「住みやすい東南アジアの都市」として、じわじわと認知が広がっている。
カンボジアの観光業:シェムリアップとプノンペンの二極化
カンボジアの観光業は、アンコールワットを擁するシェムリアップと首都プノンペンの二極構造だ。コロナ後の回復過程で、シェムリアップはインフラ整備(新空港の開業など)と合わせて外国人訪問者数が急回復している。一方プノンペンは、シェムリアップへの途中立ち寄りという位置づけから、独立した目的地としての魅力向上を目指している。
近年はプノンペン発着のビジネス利用客・長期滞在者の増加が目立つ。ビジネス会議・NGO活動・ボランティアなど、「観光」の枠を超えた滞在目的の多様化が進んでいる。カンボジア政府も、プノンペンをASEANのビジネスハブとして育てる方針を打ち出している。
【筆者所感】プノンペンで一番驚いたのは、歴史的な負の遺産(クメール・ルージュ政権による大虐殺)と急速な経済発展が同じ都市の中に共存していることだ。トゥールスレン虐殺博物館を訪れると、わずか50年前の出来事を思い知らされる。その痛みを乗り越えて前を向こうとしている人々のエネルギーが、この都市の成長を支えているように感じる。単なる観光地ではなく、「人の営み」を肌で感じられる場所として、プノンペンは一度は訪れてほしい都市だ。
まとめ
カンボジア・プノンペンの変化は、東南アジアの都市開発の縮図ともいえる。高成長・外資流入・都市化の加速という光の部分と、公共空間の喪失・住宅市場の二極化・開発の過熱という影の部分が同居している。旅行者として訪れるなら、観光名所だけでなく、生きている都市の変化を体感することをおすすめしたい。来るたびに街が変わっているカンボジアから、しばらく目が離せない。
カンボジアのデジタル化と若い世代の台頭
カンボジアの中位年齢は約26歳と東南アジアでも特に若い。人口の半数以上が25歳以下というこの国では、スマートフォンとSNSが急速に普及しており、若い世代を中心にデジタル経済が拡大している。
カンボジア独自の電子決済システム「バコン(Bakong)」は、中央銀行が主導するブロックチェーンベースのデジタル通貨で、小額送金や日常の支払いに広く活用されている。現地でバコンを使って屋台の食事代を支払うことも一般的になっており、現金社会からデジタル決済社会への移行が着実に進んでいる。
【筆者所感】カンボジアの若者が非常にデジタルに慣れていることは、話してみると実感できる。スマートフォンで動画を見たりゲームをしたりするのは当たり前で、起業や副業に関心を持つ若者も多い。経済成長のダイナミズムを直接体感したいなら、プノンペンの若い世代と交流することをおすすめしたい。彼らのエネルギーと前向きさが、この国の将来への希望そのものだと感じる。
